2023年9月号

被災後の生活継続に向けた新しい取組
(関東大震災100年〜その3)

 本年9月1日、関東大震災の発生からちょうど100年となった。本誌では一昨年から9月号を防災に関する特集としており、今回はその3回目かつ最終回である。
 一昨年の特集その1では、「災害に対する事前の備え」として、主に住宅の耐震性、防火性、耐水性、耐風性等の向上という建築技術的な観点からの対策を採り上げた。また昨年の特集その2では、「減災に向けた居住環境の改善」として、主に住宅や住環境の水準向上が災害時の被害抑止にもつながるという都市計画、住宅計画的な観点からの対策を採り上げた。今回の特集その3では、「被災後の生活継続に向けた新しい取組」として、災害発生後に被災者の居住を支援し、生活の継続を図るための対策を採り上げる。
 災害によって住まいが大きく損傷するなどして居住の継続が困難となった被災者は、一旦避難所等に避難せざるを得ないが、避難所等での生活は心身への影響が大きく、早急に居住の安定を求めるニーズが高まる。関東大震災以降も数多くの大規模災害を経験してきた現在、被災自治体が講ずることとなる居住支援策は、応急仮設住宅の確保、災害公営住宅の整備及び自力再建への支援が基本となる。
 本特集では、被災者の住生活への支援が適切に実施される道筋を提示したいと考え、基本的な居住支援策に加え、被災後の生活継続に向けた最新の知見や取組をできるだけ多角的に採り上げた。総論は、京都大学の牧教授に、関東大震災以降の災害における居住支援の変遷及び新たな復興のあり方についてご寄稿いただいた。続いて、最新の居住支援策に関する情報として、内閣府に制度全般をご説明いただいた他、応急仮設住宅に関わる主な5団体からそれぞれの特徴を簡単にご紹介いただいた。そして各論として6名の有識者から最新の研究成果を、また事例として8名の有識者・関係機関担当者からそれぞれの取組状況をご紹介いただき、最後に東京大学の廣井教授に3回の特集全体を通じたまとめと展望についてご寄稿いただいた。
 なお、本特集の企画は、廣井教授の全面的な協力の下、前編集アドヴァイザーであった大竹亮氏(一般社団法人日本設備設計事務所協会連合会専務理事)及び樋野公宏氏(東京大学准教授)とともに担当した。
 日常生活における利便性・快適性の向上に伴って被災者が期待する生活継続のレベルは年々高度化しており、また高齢者等の要支援者対策は益々きめ細かな対応が必要となっている。被災自治体内で居住支援策を担うこととなる者は、おそらく全く経験のない業務を、極めて迅速かつ的確に実施することが求められることとなるため、平時にしっかりと準備しておくことが極めて重要である。本特集がその参考となれば幸いである。

 

企画編集:本誌編集アドヴァイザー 田中 敬三
(日本住宅パネル工業協同組合専務理事)

 

特集1 近代復興から令和の復興へ〜仮すまい・公営住宅・個人の住宅再建支援〜  
 京都大学防災研究所 教授 牧 紀男

特集2-1 被災者の住まいの確保(制度全般)について  
 内閣府政策統括官(防災担当)付参事官 (被災者生活再建担当)付 参事官補佐(被害認定担当) 湯浅 翔

特集2-2 応急仮設住宅建設の取り組みについて                  
  一般社団法人プレハブ建築協会

特集2-3 地域工務店・大工が取組む応急仮設木造住宅の最新状況 
 一般社団法人全国木造建設事業協会 事務局長 坂口 岳

特集2-4 応急仮設住宅の取組 最新状況                   
  一般社団法人日本木造住宅産業協会

特集2-5 建設型応急仮設住宅の取組と最新の取組状況等について
 一般社団法人日本ムービングハウス協会 理事 柴田 大祐

特集2-6 賃貸型応急住宅の近年の動向について           
  公益社団法人全国賃貸住宅経営者協会連合会

特集3-1 生活再建の複線化を実現する復興政策を            
  立命館大学産業社会学部 教授 丹波 史紀

特集3-2 リーフレット「東京仮住まい」について         
  専修大学ネットワーク情報学部 教授 佐藤 慶一

特集3-3 東日本大震災以降の応急仮設住宅及び災害公営住宅の特徴と今後起きうる 災害に向けての課題
 国立研究開発法人建築研究所 住宅・都市研究グループ 上席研究員 米野 史健

特集3-4 なりわい・産業を含めた地域の持続性の観点からみた復興について
 東北大学大学院工学研究科都市・建築学専攻 准教授 佃 悠 

特集3-5 遠隔地避難・長期避難後の居住動向と支援〜東日本大震災後の岩手県盛岡市を対象として〜
 東海大学建築都市学部建築学科 特任講師 須沢 栞

特集3-6 水害常襲地からの撤退・再自然化(バイアウト)の可能性と課題 
 東京大学先端科学技術研究センター 特任講師 大津山 堅介

特集4-1 KASEI(九州建築学生仮設住宅環境改善)プロジェクトの活動を通じて見えたもの
 九州大学人間環境学研究院都市建築学部門 教授 末廣 香織

特集4-2 被災した場所で暮らし続ける選択
  〜サツキPROJECT:西日本豪雨で被災したパートを地域の防災拠点住宅に
  香川大学地域強靭化研究センター 特命准教授 磯打 千雅子

特集4-3 小規模分散型の災害公営住宅の計画(女川町での取組)について
 独立行政法人都市再生機構都市再生部事業企画室事業支援課 羽島 愛奈

特集4-4 地方公共団体と連携した災害復興住宅融資(高齢者向け返済特例)
 独立行政法人住宅金融支援機構地域業務統括部災害融資グループ総括調査役 杉本 敦彦

特集4-5 大地震後のマンションにおける在宅避難の事例とマンションの防災性能向上に向けた取り組み
 清水建設株式会社技術研究所シミズ・オープン・アカデミー推進室長 村田 明子

特集4-6 東京都におけるマンション防災の取組(東京とどまるマンション情報登録。閲覧制度など)
 東京都住宅政策本部民間住宅部マンション課長 山口 大助

特集4-7 「みなとアクルス」における防災の取組み       
  東邦ガス株式会社 用地開発推進部部長 今枝 薫

特集4-8 都市部から『ふるさと/地元』に身を寄せる〜遠隔地避難提供「智頭町疎開保険」〜 
 鳥取県智頭町役場企画課 谷口 史行

特集5 関東大震災100年を経て、今後の都市・地域を展望する
 東京大学先端科学技術研究センター教授 廣井 悠

 

広場

長崎県営旧魚の町団地の評価と保存再生に向けた動き
 長崎大学大学院工学研究科システム科学部門 教授 安武 敦子

 

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