2025年1月号
能登半島地震と住まいの復興
2024年1月1日に起きた能登半島地震は、半島の広域にわたって地盤面が隆起するなど、これまでに見られなかった大きな特徴を有する地震であった。また、広大な半島部特有の復旧・復興の課題が明らかとなったと同時に、地震動、津波、液状化等といった地震に起因する様々な被害をもたらした。人口減少、高齢化といった課題を震災前から抱える自治体における復興へ向けたプロセスにおいても、従来にない深刻さをもってそれらの課題が立ちはだかっている。
このため、東日本大震災以降積極的に活用されてきた「みなし仮設」は、2次避難、1.5次避難という新しい現象とともに考えなければいけないことが要請された。一方、ここ10年ほど立ち現れてきた、新たな仮設住宅の建設手法の多様な導入も実現している。ただ、単に住宅のみを供給するばかりでなく、「住宅地」や「町」としての機能を発揮するために、住宅以外の諸機能を仮設住宅地に導入する取り組みは、必ずしも大きく進んだとはいい難いものの、これまでの仮設住宅供給の経験から複数の選択的仮設住宅の姿をいち早く提示できた石川県や、地元の社会福祉法人による積極的な提案実践活動からは、学ぶべきことが多いようにも思う。
しかし、9月におきた豪雨災害は、ようやく復興の端緒につき始めた人々の多くを、容赦なくさらなる苦境に陥れ、複合災害なるものが、単に同時に起きるばかりでなく、時間差で訪れるものであることを、関係者の脳裏に刻みつけつつある。
地震被害とその原因の解明も十分に進んでいない中、さらに、豪雨災害からの立ち直りもままならない中ではあるが、こうした巨大で複雑な様相を呈している能登半島地震の1年を振り返り、これまでの復興への努力の中で、今後、他の自治体等へ伝えるべき事項として残しておきたい点、そして、今後の復興へ向けた課題などについて整理することが、本特集の目的である。
本特集においては、総論の後に、行政の各方面での取り組み、地元自治体の異なる課題ごとへの取り組み、そして、関連する住宅供給に奔走した関係事業者の取り組み、最後に、これまで同様の震災復興を各観点から研究してきた学識経験者による報告をもって、構成している。
企画編集:東京大学大学院工学系研究科建築学専攻 教授 大月 敏雄
能登半島地震からの1年
東京大学大学院工学系研究科建築学専攻 教授 大月 敏雄
能登半島地震における国土交通省住宅局の対応
国土交通省住宅局市街地住宅整備室室長 勝又 賢人
内閣府(防災担当)における被災者向け住まい確保に向けた取組
内閣府政策統括官(防災担当)付参事官(被災者生活再建担当) 飯沼 宏規
厚生労働省の福祉的対応
厚生労働省老健局認知症施策・地域介護推進課予算係長 中村 光輝
石川県における住まいの復興
石川県土木部建築住宅課長兼能登半島地震復旧・復興推進部生活再建支援課担当課長 北川 睦
石川県小松市における広域避難者への対応
小松市広域避難者対応チームリーダー(課長) 藤本 圭志
/東海大学建築都市学部建築学科特任講師 須沢 栞
能登半島地震におけるプレハブ建築協会の対応
一般社団法人プレハブ建築協会業務第一部長 井上 裕文
石川県木造住宅協会の対応
株式会社山岸建築設計事務所 代表取締役社長 山岸 敬広
コミュニティを支える被災地の居場所づくり
株式会社kyma 土用下 淳也
能登半島地震における文教施設の避難所等利用実態と課題
東北大学大学院工学研究科都市・建築学専攻 准教授 佃 悠
能登半島地震後の広域避難と支援状況
東海大学建築都市学部建築学科 特任講師 須沢 栞
能登半島地震における仮設住宅の特徴
福岡大学工学部建築学科 助教 野口 雄太
仮設住宅における地域コミュニティ施策と地域包括ケアシステム
−近代復興からコミュニティ・デザインによる現代復興へ−
東海大学建築都市学部建築学科 准教授 後藤 純
書評
超高層住宅の未来絵図 アジア4都市からみた日本
編著 高井宏之・燗c光雄・鈴木雅之
評 横浜国立大学大学院都市イノベーション研究院 教授 藤岡泰寛