2020年7月号

暮らしを豊かにするストリート

  本誌では過去に、「持続する郊外への試み」(2011年3月号)、「中古住宅の創造的再生」(2012年7月号)、「空き地を地域の資源にする」(2016年5月号)、「持続する住宅地への経営的マネジメント」(2017年11月号)、「住まいと仕事」(2019年5月号)等の特集において、高度経済成長期に全国の都市郊外部において開発された住宅地をいかに次の世代に継承していくのか、様々な視点から論じてきた。そこでは、空き家の再生や空き地の利活用で多様な地域拠点を創出して、ベッドタウンとして寝るための住処しかなかった住宅地に、活動の場、働く場、小商いの場などをミックスすることにより、エリアの魅力を高める持続の方向性が示された。
 ただし、住宅や店舗・空き地等の<点>の再生・魅力化のみでは、地域として新しい雰囲気を生み出すことが難しい。活動が部屋や区画の内側にとどまらず、その外側にも溢れ出し、さらにそれが新たな活動を誘発していくために、重要となるのは、それらを結ぶ<網の目>としての住宅地内の道である。
 しかし、日本の住宅地の道の現状をみると、そのデザインも活動の質も非常に貧しいと言わざるをえない。特に戦後に開発された住宅地では、効率よくすべての宅地に接道することのみが重視された結果、単純な碁盤目状の区画道路となっており、塀や生垣の内側にある住宅から暮らしの様子がにじみ出ることも少ない。また、ある程度の規模で開発された住宅地では、中央にスーパーや個人商店等が立ち並ぶ商店街が計画されたが、ロードサイドの発展や住民の高齢化により多くの店舗が閉店し、今ではシャッター通りとなっている。
 では、このような住宅地の道を,魅力的に変えることは可能なのであろうか。
 近年、中心市街地の駅前やオフィス街で、地域の魅力を高めるエリアマネジメントの取り組みがなされている。その際に、主要な活動の舞台となっているのが、ストリートである。社会実験としてオープンカフェを設置する、季節ごとの様々なイベントを路上で実施する等により賑わいを作り出し、多くの人が訪れ楽しむことにより、地域の価値を高めるマネジメントが試みられている。
 しかし、このような街なかのストリートをステージとしたエリアマネジメント手法を、そのまま住宅地の道へ転用することはできない。そこは、あくまで暮らす人が主人公となる場所であり、外部から多くの人を迎え入れての賑わいづくりが求められているわけではないからである。
 それでは、住宅地の道を、単なる車通行用の道路ではなく、暮らしを豊かにするための多様な行為が営まれる“ストリート”とすることは可能なのであろうか。
 本特集では、住まいと道の関係に関する時代ごとの提案とその現状、使い手によるアクティビティを高める戦術、ストリートの魅力化と地域の継承について考えることにより、住宅地の道の再定義を試みたい。

 

企画編集:大分大学理工学部創生工学科建築学コース 准教授 柴田 建

 

ストリートのクリエイティビティと住宅地の継承
 大分大学理工学部創生工学科建築学コース 准教授 柴田 建

住宅地のストリートデザイン・マネジメント
 東京大学大学院新領域創成科学研究科 特任助教 三浦 詩乃

ニュータウンのペデストリアンデッキの活用:つくばセンター地区
 筑波大学システム情報系 准教授 藤井 さやか

“住みたい街”から“住み続けたい街”へ 
 〜“住宅で都市を創る” 都心型住宅地「幕張ベイタウン」の魅力再発見〜 
  幕張ベイタウン協議会 松田 和紀

生活者の視点でストリートをデザインする〜宮脇檀の住宅地設計から学んだこと〜
 潟Aーバンセクション 代表取締役 二瓶 正史

道から町を変える:タクティカル・アーバニズムと都市コモンズ
 株式会社オープン・エー 内海 皓平

道路から育くむ子どもと大人の豊かな暮らし〜とうきょうご近所みちあそびプロジェクト〜
 一般社団法人TOKYOPLAY代表理事 嶋村 仁志

住宅地沿道におけるエディブル・ランドスケープ(食べられる景観)の展開
 〜エディブルウェイプロジェクト(千葉県松戸市)〜
  一般財団法人世田谷トラストまちづくり/千葉大学大学院園芸学研究科博士研究員 江口 亜維子

歩きたくなるストリートのデザイン               
  豊田市都市整備部都市整備課

 

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