特集/公営住宅の新たな使命
公営住宅の目的は、「住宅に困窮する低額所得者に対して低廉な家賃で賃貸」することにより、「健康的で文化的な生活を営むに足りる住宅」(公営住宅法第1条)として整備することにあり、市場において供給されない低額所得者向けの賃貸住宅として供給されてきた。公営住宅においては、市場を補完し、居住に関するセーフティネットとしての役割を担う必要があると指摘されて久しい。
とりわけ、住宅困窮者に対する的確な供給のための入居者資格、管理等の適正化を図り、住宅のセーフティネットの充実を図ることが重要とされている。ただ、この点からは、社会的弱者を画一的に集めるだけの空間装置とならないための知恵が必要とされるだろう。
また一方で、法改正によりこれまでにない多様な公営住宅の運用が、自治体の裁量によって可能になろうとしている。多様な地域的事情に応じて公営住宅が運用される場合、ここの知恵を集めることによって「衆知」としていくことがますます重要となるだろう。
さらに、今回の東日本大震災の復興住宅としても、公営住宅は大きな注目を集めつつある。震災という特殊条件だけではなく、上に指摘した「セーフティネットの問題」「地域固有の問題」をも同時に、しかも短期に解かなければならない。
こうしたことから、公営住宅は現在、いろいろな角度から日本社会を支えるための空間装置として、その新たな使命を期待されているのである。
今回の特集では上記の状況を踏まえ、住宅局、自治体、研究者等からの報告をいただき、今の日本において考えなければならない公営住宅の新たな使命について、今後幅広く議論していくための多様な論点を提供したい。
企画・編集:東京大学大学院工学研究科建築学専攻 准教授 大月 敏雄
いまふたたび、公営住宅の使命を考える
東京大学大学院工学研究科建築学専攻 准教授 大月 敏雄氏
東日本大震災における公営住宅の供給について
国土交通省住宅局住宅総合整備課
公営住宅における外国人世帯の集住と地方自治体の取り組み
−群馬県伊勢崎市の事例を通して−
東京大学大学院工学研究科建築学専攻博士課程 北原 玲子氏
改良住宅地域の変遷からみた公営住宅施策の新たな使命
CASEまちづくり研究所顧問/近畿大学建築学部准教授 寺川 政司氏
公営住宅を活用した高齢者のシェア居住
−名古屋市高齢者共同居住事業の立ち上げ−
名古屋市住宅都市局住宅部住宅管理課
地域振興と公営住宅 −「土佐派の家」つくり−
山本長水建築設計事務所代表 山本 長水氏
高齢社会における公営住宅の可能性
国立保健医療科学院上席主任研究員 井上 由起子氏
阪神・淡路大震災における災害復興公営住宅での高齢者対策について
兵庫県県土整備部住宅建築局公営住宅課長 槇林 正樹氏
復興公営住宅について 旧山古志村の住宅再建支援
アルセッド建築研究所 武田 光史氏
野田市営住宅におけるDV被害者への居住支援の取組み
本誌編集事務局
建築研究
建築研究所の最近の取組みより(その4)
「防犯まちづくりデザインガイド〜計画・設計からマネジメントまで」の作成と普及
独立行政法人建築研究所主任研究員 樋野 公宏氏
広場
〜法律入門シリーズ<第8回>〜 公営住宅管理に関する諸課題について(その1)
松田綜合法律事務所 弁護士 佐藤 康之氏
小さなコーポラティブハウス「みんなの家」
NPO法人みんなの家 事務局長 中村 真知子氏
書評
緑の分権改革 −あるものを生かす地域力創造
政策研究大学院大学教授 福井 秀夫氏