2021年5月号

住環境の魅力を高める地域のマネジメント手法

 自分が住んでいる地域の環境が満足すべきものであることは、幸福の基本条件の一つであろう。
 居住地の生活環境を維持し向上させるためには、新たな開発を効果的に誘導することから、既存の施設を適切に維持管理することまで、地域の実情に応じた持続的なまちづくりが必要である。せっかく良好な環境に造られた住宅地も、当初の計画理念が引き継がれなければ、更新のたびにその良さが失われていく。また、地域の住環境が抱える課題について、新たな開発に際しての工夫により解決していくことも可能である。そして、生活環境を維持しコミュニティを活性化するには、居住者が共同して取り組まなければならないことも多い。もとより、自分たちの生活環境を守り育てるには、住民主体の取り組みが基本であろう。いずれについても、実効性あらしめるための具体的な仕組みづくりが重要である。そこで、地域主導の開発計画調整システムから住宅地のエリアマネジメントまで、居住地の魅力を高め、生活環境を守るための地域主導で持続的なまちづくりの方法を探ることとしたい。
 本特集では、まず総論として、住環境向上の全般について高見澤邦郎先生にお願いし、次に論考として、地域の計画的なマネジメント手法を野澤康先生に概括いただいた。そして、注目すべき先導事例として、7つの地区の住環境マネジメントの取組みを各地区の関係者に紹介していただいた。各地域の特性や課題は多様であり、解決の方法も異なっているが、いずれも、行政と住民と事業者が協力して、目指す住環境(こうあって欲しいと思うまち)を実現するための仕掛けである。
 住環境は日々の生活に密接に関連しており、その魅力を高めることは人々の幸福実現に大きく関係している。しかも、住宅単体であれば個人でもある程度の改善ができるのと異なり、住環境は個人では解決が難しい地域社会共通の課題である。地域ごとに異なる将来像を描き、行政と住民がそれを共有し、実効性のある手法によって、地域に住む人々の希望する住環境を作り出していくことが必要となる。しかしながら、従来からの手法は、新規開発での良好な住環境の形成や、課題のある地区の住環境の改善などが中心で、多くの居住地における望ましい将来像を実現する道筋については、まだまだ発展途上の段階であろう。本特集が、住環境の魅力を高める地域のマネジメント手法を考える上で、役立つことが出来れば幸いである。

 

企画編集:本誌編集アドバイザー 大竹 亮

 

住環境の魅力づくり〜我が身の50年を振りかえり〜     
 東京都立大学名誉教授 高見澤 邦郎

地域のマネジメントを支える計画・制度     
 工学院大学建築学部まちづくり学科教授 野澤 康

‐地域主導の住環境マネジメント事例‐ 
 川崎市・小杉駅周辺地区のまちづくり
  川崎市まちづくり局拠点整備室

‐地域主導の住環境マネジメント事例‐
 筑波研究学園都市の土地利用転換と住民活動
  〜未利用地・公務員宿舎跡地等の住環境と景観の継承に向けて〜
   筑波大学システム情報系准教授 藤井 さやか

‐地域主導の住環境マネジメント事例‐ 
 地域主体の開発協議による環境マネジメント:代官山ステキなまちづくり協議会の活動から 
  川武V都心街づくり財団特別研究員(元東海大学教授) 加藤 仁美

‐地域主導の住環境マネジメント事例‐
 福岡・香椎浜地区のまちづくり 
  〜計画的に開発整備された住宅地の更新〜
   香陵校区まちづくり協議会事務局 大竹 亮

‐地域主導の住環境マネジメント事例‐
 八潮市まちづくり条例の「地域特性基準適合制度」に観る
  地域マネジメントの取り組み
   市民未来まちづくりテラス 松本 昭

‐地域主導の住環境マネジメント事例‐
 団地建替に伴う郊外でのエリアマネジメントの現場から
  〜仕組みづくりから5年間の伴走支援、そしてコロナ禍における地域主体のエリアマネジメントへ〜
   HITOTOWA INC.シニアディレクター 熨コ 和明

‐地域主導の住環境マネジメント事例‐
 既成住宅地のマネジメント事例/横浜市・金沢シーサイドタウン「あしたタウンプロジェクト」
  横浜市立大学大学院都市社会文化研究科教授 中西 正彦

新しい住環境マネジメントに向けて〜こうあって欲しいと想うまちのために〜
 株式会社日本建築住宅センター専務取締役 大竹 亮