2015年5月号

特集/住まいから見た筑波研究学園都市の半世紀

 1963年に筑波研究学園都市の建設が閣議了解されてから半世紀が経過した。1980年には予定されていた全ての研究教育機関の移転が完了、1985年の国際科学技術博覧会(科学万博)はその名を世界に知らしめる契機となった。そして現在、筑波研究学園都市は30を超える国等の研究教育機関と、約300に及ぶ民間の研究機関、企業等が立地し、約2万人の研究者を有するわが国最大の研究開発拠点となっている。
 さて、筑波研究学園都市建設法(1970年施行)では「試験研究及び教育を行なうのにふさわしい研究学園都市を建設するとともに、これを均衡のとれた田園都市として整備」することが目的に掲げられ、当時の最新の理論や技術によるまちづくりが行われた。特徴的な都市インフラとして、総延長48kmに及ぶ歩行者専用道路(ペデストリアンデッキ)や、そのネットワークに沿って計画的に配置された公園や公共施設などが挙げられる。加えて多様な住宅も筑波研究学園都市の特徴のひとつであり、約8千戸の公務員宿舎をはじめ、公営・公団住宅、また戸建て住宅地などにおいて様々な試みがなされた(本誌1992年11月号特集「筑波研究学園都市〜新都市における住宅開発〜」参照)。そしてこれらの経験は、その後の関西文化学術研究都市(1987年都市建設法施行)をはじめとする全国の学園都市へとつながった。
 一方で筑波研究学園都市は転機を迎えている。2001年には多くの国立研究教育機関が独立行政法人化され、2005年からは公務員宿舎の削減が始まった。同年のつくばエクスプレス開業に伴う開発圧力もあって、宿舎跡地には大規模な民間マンションが建設されるなど、学園都市を特徴づけていたゆとりある緑豊かな景観は変化しつつある。2012年には、東日本大震災等の影響もあって当初よりも大幅な宿舎削減計画が公表されており、つくば市などの関係機関は対応を迫られている(詳細は本特集の小林(遼)論文を参照)。さらに、人口減少時代の到来は「首都圏の既成市街地における人口の過度集中の緩和に寄与すること」(都市建設法第1条)という筑波研究学園都市の目的の再定義を迫っている。
 こうした都市建設の経緯や背景を踏まえ、本特集では住まい(住宅及び住環境)の視点から筑波研究学園都市の現状をアーカイブし、その将来を展望することを目的に7編の論文を掲載する。本特集がわが国における今後の都市開発、住宅地開発の論点を導出する手掛かりになることを期待する。

 

企画編集:東京大学大学院工学系研究科都市工学専攻 准教授 樋野 公宏

 

筑波研究学園都市の成長と住まい
  千葉大学大学院工学研究科 教授 小林 秀樹
  (特定非営利活動法人つくばハウジング研究会 代表)

公務員宿舎の計画意図と現在の評価 〜居住者アンケートより〜
 東京大学大学院工学研究科 准教授 樋野 公宏
 筑波大学システム情報系社会工学域 助教 山本 幸子

公務員宿舎廃止を踏まえた研究学園地区のまちづくりについて
 つくば市企画部まちなみ整備課 主任 小林 遼平

筑波万博からつくばスタイルへ サイトプランニングとプレイスメイキングの試行
 筑波大学芸術系環境デザイン領域 准教授 渡 和由

研究学園都市での住宅地管理の取り組み 〜区会連絡会の設立支援業務を通じて〜
 株式会社プレイスメイキング研究所 代表取締役 温井 達也

ウェルネスシティつくば桜
 積水ハウス鞄結梵ン計室 部長 上井 一哉

開発前の集落
 国土交通省国土技術政策総合研究所住宅研究部住宅計画研究室 研究官 小林 英之

 

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