2014年7月号

特集/高齢者の居場所

 わが国においては、世界に類を見ないほど急激な高齢化が進展しており、高齢者の活力ある暮らしや社会保障費抑制の観点から、介護予防の一層の取り組みが求められている。こうした背景を踏まえ、本特集では高齢者の居場所に着目する。居場所は外出促進、孤立予防などを通じて、高齢者の心身の健康維持・増進に寄与することが期待されるからである。
 しかし、ひとくちに居場所と言ってもその設えもそこでのアクティビティも多様である。空き家や空き店舗を活用した居場所もあれば、屋外の居場所もあり得る。生涯学習や趣味の場もあれば、食事・喫茶が出来る場、社会参加出来る場もある。高齢者自身が居場所の運営側に回ることも少なくないだろう。いずれにせよ、高齢者はそこに自由に立ち寄り、居心地良く時を過ごしている。
 レイ・オルデンバーグ(1989)は、第一の場所である家、第二の場所である職場とともに、家庭や職場での役割から解放され、個人としてくつろげる「サードプレイス」の必要性を論じた。後の拙稿で述べるように、多くの高齢者にとって「第一の場所」「第二の場所」の役割は低下し、サードプレイス=居場所の必要性が高まる。本特集が高齢者の居場所に焦点を絞った理由はここにある。
 以下、拙稿を除く論考の概要を簡単に紹介する。金・西出は、韓国での調査をきっかけに東京都内と近郊の集合住宅団地における高齢者の居場所=自分らしくいられる好きな場所の成立要件を考察している。齊藤は、釜石市の仮設住宅における調査から、住棟配置によって玄関先が居場所になり得ること、気兼ねなく滞留できる団地内施設が居場所になっていることなどを明らかにしている。神戸市の報告は、公営住宅の空き住戸等を活用した「あんしんすこやかルーム」が地域の高齢者の安心感や孤立防止に役立っているというもので、住宅部局と福祉部局との連携という点で注目に値する。春日井市は、地域で運営する防犯活動拠点が高齢者に活躍の場を与えるとともに、高齢者の居場所として機能していることを報告している。これらの論考で扱われる居場所は、上述した居場所の多様性の一端を示している。ここに居場所づくりのヒントを発見していただけるなら幸いである。

 

企画編集:東京大学大学院工学系研究科都市工学専攻准教授 樋野 公宏

 

地域における高齢者の居場所づくり
 東京大学大学院工学系研究科都市工学専攻准教授 樋野 公宏氏

個々の高齢者の居場所とその成立要件 集合住宅団地に暮らす高齢者に着目して
 東京大学大学院建築学科専攻Ph.D(現)日建設計 金 明鎬氏
 東京大学大学院工学系研究科建築学専攻 教授 西出 和彦氏

コミュニティケア型仮設住宅における居場所‐岩手県釜石市平田第六仮設団地を事例として‐
 東京大学大学院工学系研究科建築学専攻 修士課程 齊藤 慶伸氏

公営住宅等を活用した神戸市の高齢者の地域見守りについて
 〜高齢者自立支援拠点「あんしんすこやかルーム」づくり事業を中心に〜
  神戸市保健福祉局介護保険課/住宅都市局住宅政策課

JR春日井駅前防犯ステーション「ふれあい」の役割
 〜民間交番が高齢者の活躍の場と居場所として機能した取組み〜
  春日井市総務部市民安全課

 

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