2013年9月号

特集/緑から考える住宅地

 住宅地には3つの異なる時間軸が内包されている。1つめは、居住者自身が持つ時間軸である。居住者は時間の経過に伴い年齢を重ね、家族構成やライフスタイルが変化してゆく。2つめは、建築物としての住宅の時間軸である。日本の場合はこの時間軸が比較的短いと言われているが、経年変化は味わいや愛着にも繋がる。3つめは、住宅を取り巻く外構空間における緑の時間軸である。適切な手入れや管理をされた緑は、時間を経ることにより住宅に風格や落ち着きをもたらす。住宅地では、この3つの要素がそれぞれ異なるスピードで時を刻むことにより、固有のランドスケープが生み出されている。開発されたばかりの住宅地と開発から20年、40年を経たものの違いを誰もがわかるほど、住宅地の空間特性には時間軸が強く反映されている。

 日本では、高度成長期終盤の1973年に最も多く住宅が建設され、それから既に40年が経過した。その当時、30代で住宅を入手した人は70代になっている。日本の一般的な住宅の寿命を踏まえると、40年が経過した住宅はそろそろ修繕や改修での対応が難しくなり、更新の検討が必要になる頃である。ただし、居住者が70代であれば、多少不便であっても住み続けることを選択する場合が少なくないだろう。

 一方、40年という時を経て立派に成長した緑は地域の資産やランドマークにもなり得るが、居住者が70代の場合、居住者自身による管理が難しくなり、手入れのためのコストも負担に感じている可能性がある。居住者、住宅、緑という異なる時間軸を持つ主体が、いかに良好な関係性を維持し続けることができるかが、住宅地の質や持続可能性の確保において重要な観点となる。

 この3つの要素のうち住宅地の顔となる個性を持たせるものは何だろうか。住宅は商品の側面を持つことから、その時代の流行や技術、供給側の得意な構法や構造による形態の違いは出るものの、そこに居住者の個性が反映される余地は一部の特殊な事例を除くとあまりない。これに対し外構は、居住者のオーダーメイドの空間であり、なおかつ居住者による日常的な管理が必要であることから、実は居住者の個性が最も表出する部分だと考えられる。

 そこで、本特集では住宅地の「図」と「地」のうち「地」の部分にあたる緑の側面から住宅地を改めて捉え直し、その意義や課題、緑を通じた住宅地の再生やアイデンティティの形成の可能性について多様な側面から切り取ってみた。今後の住宅地の開発・再生の検討において、新たな観点を提供できれば幸いである。

編集・企画:千葉大学大学院園芸学研究科 准教授 秋田典子

 

 

緑から考える住宅地
 千葉大学大学院園芸学研究科 准教授 秋田典子氏

「心」と「地球」を繋ぐランドスケープデザイン −集合住宅地における緑のデザイン−
 関東学院大学/建築・環境学部 准教授 中津 秀之氏(有限会社サイトワークス主宰)

緑で住まい手とまちを繋げる
 積水ハウス株式会社設計部東京設計室 部長 上井 一哉氏

まちの緑を継承する仕組みづくり−鎌倉市における過去の開発地の緑と現在の緑化施策について−
 鎌倉市企画調整官 土屋 志郎氏

植栽帯によるまちなみ形成
 東京大学大学院工学系研究科建築学専攻 技術補佐員 深見 かほり氏

訪問園芸活動 〜住宅地の緑を通じた「つながり」づくり
 千葉大学園芸学部 関根 詩織氏/千葉大学園芸学部 小泉 春佳氏/千葉大学大学院園
 芸学研究科 末永 和也氏/日本科学未来館 本田 ともみ氏

緑にまつわる争いを防ぐ
 松田綜合法律事務所 弁護士 佐藤 康之氏

 

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