平成24年7月号

特集/中古住宅の創造的再生

 
戦後の高度成長期以来、日本人にとっての夢のマイホームとは、「新築の庭付き一戸建て」を意味してきた。急速に生活水準が上昇して行くなかで、その器である住まいについても、ハウスメーカー等が矢継ぎ早に商品としての住宅のモデルチェンジを行うことで漸次質的な発展を遂げてきた。その結果,「より新しい住宅」=「より豊かな住宅」として、皆が新築住宅を求めてきたのである。一方で中古住宅は、新築が手に入らなかった家族がやむを得ず選択する「残念な」住まいと成り果ててしまい、流通が活性化することはなかった。
 しかし近年になって、この中古住宅をめぐる状況が大きく変化しつつある。ひとつは、大量の良質な中古住宅ストックの存在である。特に、庭付き一戸建て建設の用地として全国の都市周辺で大量に開発されてきた郊外住宅地において、夢のマイホームであった住まいの空き家化が進行している。これらを、一代限りの住宅として使い捨ててしまうのは、あまりにもったいない。一方で、家族の側も変化している。不況が長期化した結果、マイホームを求める世代である30代の所得は減少を続けている。さらに、グローバリゼーションの元で雇用自体が不安定化した。そのため、新築住宅を得るために35年ローンを組むことを決断できる世帯主はもはや少数派となった。
 こうして、当然ながら中古住宅が社会的に重要な選択肢として注目を集めることとなった。そして、法制度の整備、リフォーム産業の育成など様々な施策が取られている。 しかし、未だ市場での流通量は他の先進国と比べると低調なままである。何故か?
 それは、「中古住宅=残念な選択」という社会的認識の根強さが、その住み継ぎを阻んでいるためなのではなかろうか。重要なのは、この中古住宅を「望ましい選択肢の一つ」へとイメージの転化を果たすことである。そのためには、新築の後追いをするようなリフォームではなく、中古住宅を創造的に住み継ぐための再生手法が求められているのである。
 すでに全国各地の現場では、多様な主体によって,新築とは異なるベクトルのリノベーション・デザイン、あるいはオーナー自身のセルフリノベによるカフェ転用など,先駆的な取り組みが始まっている。本特集では、そのような取り組みを多角的な視野から収集し、中古住宅の創造的再生手法の特徴と拡がりを提示することにより、そのポテンシャルを探る作業を行いたい。

企画・編集 九州大学大学院人間環境学研究院都市・建築学部門 助教 柴田 建


中古住宅のリノベーション/シェア/コンバージョンとコミュニティの再定義
 九州大学大学院人間環境学研究院都市・建築学部門 助教 柴田 建氏

新しい価値観、ライフスタイルと中古住宅
 (株)カルチャースタディーズ研究所 代表取締役 三浦 展氏

湘南における古民家愛好家のライフスタイルとネットワーク
 編集ライター/講座プランナー 大箸 テコ氏

中古住宅のリノベーション・デザイン
 納谷建築設計事務所納谷 学氏・納谷 新氏

古い平屋のレゾンデートルとその活用法について
 アラタ・クールハンド氏

住宅地からカフェ街へのコンバージョン ‐沖縄・港川外人住宅‐
 九州大学大学院博士課程 緒方 大地氏 梶原 あき氏

中古からRe-Livableへ 文脈重視の創造的転用 ‐住み開きをきっかけに‐
 日常編集家 アサダ・ワタル氏


広場

ヴィラ松ヶ丘(龍が崎シニア村2期):新しい高齢者向けの集合住宅の取組み
(地域に開かれたコーポラティブシニアマンション)
 龍ヶ崎シニア村事務局 今美 利隆氏・久美子氏


住宅だより海外編

エコロジカルな実験的住宅開発プロジェクト「エコ・ヴィーキ」その2
‐笑顔あふれる住宅地の作り方‐
 実践女子大学大学院人間社会研究科非常勤講師 宇治川 正人氏

第64回通常総会報告について
住宅関係功労者表彰